「この度、社命により留学することとなりました。
留学終了後、万一、5年以内に自己都合により退職する場合は
留学費用(ただし人件費相当分を除く)を全額返還いたします。」
といった内容の誓約書を会社に提出して留学し、
留学終了後5年経たないうちに会社を辞めてしまった場合、
会社はこの社員に対して、留学費用の返還を求めることができるでしょうか。
この誓約書により、留学費用の金銭消費貸借の合意が成立したかどうか。
成立しているとして、労働基準法16条、14条に反し無効か。
といった点が問題になります。
この点が争われた裁判例(東京地裁H16.1.16)を参照すると、
文言を社会通念に従って判断すると、
社員は会社に対して留学費用について返還約束をしたものと認められ、
弁済期を定めないこととして会社が社員に貸し付け、
留学課程終了後5年間、社員が就労した場合には
返還義務を免除する旨の消費貸借合意が成立したものと認められる、
とされています。
2点目については、
それが損害賠償額の予定又は違約金と見なされ、
退職の自由を不当に制限するものか否かによる。そして、
業務遂行に必要な費用は、本来的に使用者が負担すべきものであり、
一定期間内に労働者が退職した場合に、これを労働者に負担させるという合意は、
それが消費貸借合意であったとしても、
実質的に違約金ないし損害賠償額の予定と認められる。
会社が費用を負担した海外留学が業務性を有し、
使用者がその費用を負担すべき場合には、
留学費用についての消費貸借の合意は、
労働基準法16条ないし14条に違反するものとして無効となるというべきである。
このケースでは、応募が社員の自由意思に委ねられており、
留学先なども選択できたこと、簡単な報告書の提出以外には、
業務に関係のある課題などが課せられていなかったこと、
業務に対し、相当過剰な程度に汎用的な経営能力の開発を目指すものであること、
MBA資格が担当業務に必要なものでないこと、
などから、留学は業務性を有するとはいえないとして、
留学費用を目的とした消費貸借合意は、
実質的に違約金ないし損害賠償の予定であるということはできず、
労働基準法16条ないし14条に反するとはいえない。
結果として、会社からの返還請求が認められました。
ただ、返還金額に関し、「留学費用(ただし人件費相当分を除く)」の中身が
賃金(人件費)に当たらないことが明確とはいえないもの以外の
留学に必要な費用(大学授業料及び大学出願料)をいうと認定されているため、
かなり抑えられています。
業務性の有無に関しては、ケースごと具体的に判断されるでしょうね。